小樽の

文学史


市立小樽文学館

小樽ゆかりの作家、歌人の貴重な資料を展示・公開しています。


 作家の書幅・額を展示する和室コーナー

 石原慎太郎コーナー

 石川啄木コーナー

 小林多喜二コーナー

 伊藤整コーナー


石川 啄木

明治20年(1907年)9月末、21歳で小樽日報の創業に参加するため来樽。しかし、100日余りで事務長と喧嘩し呼び寄せた家族を残し釧路へ。「子を負いて、雪の吹きくる停車場に、われを見送りし妻の眉かな」この時の恨みが感じられる歌を残す。「かなしきかなは小樽の町よ、歌ふことなき人人の、声の荒さよ」(一握の砂・明治43年)幼い頃、石川啄木の残した歌で、啄木は小樽が好意を持っていなかったと聞かされました。しかし、改めて歴史を紐解いてみると、丁度、この時の小樽は石炭、木材、を中心とする鉱工業、穀物を中心とする農産物取引の商業、港湾、金融、貿易センターとしての機能を果たしつつあり、文化を容認する余裕がなかったと言われています。
啄木が函館を訪れたのは函館港は開港40年で成熟期を迎えており、成長期の小樽港とは違っていたと思われます。残した歌はみんな好意的です。「東海の小島の磯の白浜に・・」、「函館の青柳町こそかなしけれ、友の恋歌、矢ぐるまの花」、函館山の途中の立待岬の石川啄木記念碑は観光名所になっていますが、小樽の啄木の歌碑はちょっと寂しい。花園公園内と水天宮に歌碑があります。

小樽花園公園内の歌碑


 こころよく、我にはたらく仕事あれ、 
 それを仕遂げて、死なむと思ふ 



水天宮境内の歌碑


 かなしきは、小樽の町よ、 
 歌ふこと、なき人人の、声の荒さよ 


小林 多喜二

秋田県生まれ。明治40年小樽に移住し、大正10年小樽高等商業学校に入学し、校友会誌の編集委員となり詩や短編を発表。中央雑誌にも投稿。卒業後、北海道拓殖銀行に就職、市内の有志とともに同人誌「クラルテ」を発刊。社会科学を学びはじめ、近代資本主義の諸問題に関心を抱き、港湾労働者の争議の支援等にかかわるようになる。昭和4年、「蟹工船」「不在地主」を発表、拓銀を依願退社し翌春上京し、昭和6年当時非合法下にあった日本共産党に入党。極めて困難な創作活動と続けていたが、昭和8年、築地署特高に逮捕され拷問を受け死亡しました。

市内を見おろせる旭展望台の奥の小林多喜二文学碑


 冬が近くなると、ぼくはそのなつかし、い国のことを考えて、深い感動に捉えら、れている そこには、運河と倉庫と税関と、桟橋がある そこで、は人は重っ苦しい、空の下を どれも背、をまげて歩いている、ぼくは何処を歩いて、いようか どの人を、も知っている 赤い、断層を処々に見せて、いる階段のように山、にせり上がっている街、を ぼくはどんなに、愛しているか分からな、い


伊藤 整

松前郡生まれ。明治39年に塩谷村に移住。中学在学中に中央雑誌に投稿。大正11年小樽高等商業学校に入学。1年上級に多喜二がいました。同人雑誌「青空」に参加。英語教師として教壇に立ちながら、文学活動を続け、「雪明かりの路」を自費出版。昭和3年中学校を退職後に上京し、小説家、翻訳家として活躍しました。「若い詩人の肖像」をはじめ小樽を舞台にした作品が多い。文学碑のあるゴロタの丘の近くでお蕎麦屋の向かいの5号線沿いに昔、ゴロタと言う喫茶店がありましたが、そこで、一時期アルバイトをしていたのは何を隠そうこの私です。

塩谷ゴロタの丘の伊藤整文学碑


 海の捨児、私は浪の音を守唄にして眠る、騒がしく絶え間なく、繰り返して語る灰色の年老いた浪、私は涙も涸れた凄愴なその物語を、つぎつぎに聞かされてゐて眠つてしまふ、私は白く崩れる浪の穂を越えて、漂つてゐる捨児だ、私の眺める空には、赤い夕映雲が流れてゆき、そのあとへ星くづが一面に撒きちらされる、ああこの美しい空の下で、海は私を揺り上げて揺り下げて、休むときもない


八田 尚之

明治38年、小樽まれ。庁立小樽中学校卒業後上京。明治大学在学中より劇作家を志し、多数の映画シナリオを書きました。昭和37年に初演された「ふるさとの詩」は郷里に材を獲たもので、小樽の郷土料理店が舞台になっています。昭和39年、手織座の第一回北海道公演では小樽市民会館でこれを7回連続上演。延べ約1万人の観客を動員しました。

祝津鰊御殿敷地内八田尚之文学碑


 がんぜ、夏休みなると、おれたちは道ばたの、ざっぱ木を拾い拾い赤岩ポントマルへ、毛コのはえた兄分は褌、おれたちはふりちん、それっともぐり、一尋二尋きび悪いほど、青い岩肌に、めんこいがんぜ一つ二つ、腹時計がおひるに、なる、ざっぱ木のたき火に、がんぜのへそをぬいてほうりこむ、こんがり焼けたがんぜが、おれたちのひるめしだ、夕焼けると、みんなの唇は茄子色、ほら鴉が家さかえって、くぞ、おらたちもかえるべ、冷えてちぢまりきった、皆のきゅうすを揃え、一二の三、おしっこの消火だ、あああのがんぜが、出世して高価高質、の珍重味とは



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